時間は少し前に遡る。夕方、風呂から上がった神楽は、宗助による攻撃に精魂尽き果てていた。無邪気な悪魔である、そんなふうに思っていたのだ。
「宗助、お前なんでこんな事ばっかりするアルカ?」
宗助の体をタオルで拭きながら神楽は聞いた。幼子とは言え、赤ん坊ではない。それなのに妙に甘えてくるのだ。そう言えば、と神楽は思い出した。宗助は『父ちゃん』とは言うが『母ちゃん』とは言わない。もしかすると宗助には母親がいないのではないかと気付いた。
「宗助のマミーは、一緒に暮らしてないアルカ?」
するとそれまで明るく見えた表情に陰りが見えた。
「うん、母ちゃんは……オイラが赤ちゃんの時にお星様になったって、父ちゃんが言ってた」
「そうだったアルカ……私と一緒ネ」
神楽も遠い昔に母親を亡くしていたのだ。そして、孤独の中もがいてもがいて、何も見えなくなって…………鈍く光る銀色に導かれるようにここへ辿り着いた。巡り合わせとは妙なものだと感じていた。
しかし、宗助のこの甘えっぷりが普段母親にしたくても出来ないことであれば、神楽の意識も少し変わった。自分が求められているのであれば、大人しく甘えさせてあげようと思ったのだ。まだ母親が恋しい年齢で、それなのにどうやったって甘えることが出来ない。どこか遠い日の自分自身と重ねて見ていた。
「じゃあ、着替え終わったし、銀ちゃん達の所へ戻ろっか」
神楽は宗助と居間へ繋がる廊下に出て、そして引き戸に手を掛けた時。開ける事が出来なかったのだ。それは聞こえて来た銀時と新八の会話のせいである。
「宗助の親父は大工の茂吉つうらしい……」
神楽は咄嗟に宗助の耳を塞ぐと、二人の会話を盗み聞きした。内容はこうであった。
宗助の父親である茂吉は、クスリの売人で、しかも黒龍という人身売買シンジケートと繋がっていた。表向きは大江戸木材という企業を語っていたが、実際に業務している気配はなく、黒龍が動きやすいように擬態しているだけであったのだ。だが、今日その茂吉は組織を裏切って、クスリを買っていた顧客リストと帳簿の写しを持ちだした。そして、それを宗助に託すと…………姿を消してしまったのだ。拉致という形で。
「だからあいつら、宗助を追ってたアルナ…………」
昼間の真選組を思い出していた。子供相手に多数で追っていたが、余程切羽詰まっていたと見える。神楽は銀時の話を聞き終わると、宗助を見つめた。何も分かっていない純粋な瞳が神楽を映す。それがどんなものよりも恐怖に感じた。それと同時に壊したくないと思ったのだ。
『神楽には言うな』そんな言葉が聞こえて来たが、神楽はもう聞いてしまっていた。そして、銀時の言葉を裏切ることなく一人で茂吉を救出しに乗り込む気でいた。母親も亡くし、父親まで亡くし……そうなればあまりにも可哀相だと思ったのだ。いつか神楽自身が銀時と新八に助けてもらったように、神楽も万事屋として宗助を助けてやりたいと強く決意した。
しかし、アテがない。茂吉がどこへ連れ去られたかなど検討もつかなかった。それにあの真選組が追っても尻尾をなかなか掴めないでいる。一人で何が出来るだろうか。とりあえず実行するなら、銀時……そして宗助も寝静まった夜が適していると考えるのだった。
狭い部屋に布団を敷き詰め、銀時、新八、宗助、神楽と団子になって眠っていた。もうすぐで日付の変わる時間である。神楽はそっと布団から抜け出すと髪を二つに結い、丈が足首まである真っ赤なチャイナドレスに身を包んだ。そして、紫の番傘を持つと音を出来るだけ立てずに万事屋から出て行った。目指すは――――――真選組屯所・監察である山崎退の元だ。情報を一番知っているのはあの男だと思ったのだ。居るかどうかは分からないが、神楽は屯所の裏に回ると三メートルはありそうな壁を易々と飛び越え、敷地内へと侵入した。舞い降りる様はいつみても天女のようであり、異世界のものを思わせた。だが、引き締まる表情は厳しい目をしており、闇に潜む悪を食らうハンターのようであった。
神楽は長い髪をなびかせると、山崎退を捜して屯所を駆けた。
思いのほか早く辿り着いた。それには神楽の最大の武器である《女》を使ったわけなのだが、若い隊士の耳元に軽く息を吹きかけただけで山崎の居場所を手に入れたのだ。そういうわけで神楽は山崎が眠っているであろう部屋の前に立つと、静かに室内へと侵入した。
薄暗い部屋。寝息が聞こえている。呑気なものだと神楽は山崎の体の上に跨ると、鼻を摘んだのだった。
「んぐッ! プハッ!」
もがきながら飛び起きた山崎に神楽は微笑むこともなく言った。
「お前の追ってる黒龍って組織のアジトはどこネ?」
山崎の額には汗が滲み、この状況に焦っていることは容易に分かった。
「ちょっと! どうやって侵入したんだよ!」
はぐらかそうとする山崎に神楽は詰め寄ると、鼻先を擦り合わせる距離でようやく微笑んだ。
「茂吉って男がどこに居るか知ってんダロ?」
「……一人で乗り込む気か?」
神楽はその質問に答える気はなかった。山崎が答えるのが先だと思っているからだ。神楽はいつまでも何も言わない山崎の胸ぐらを掴むと激しく揺さぶった。
「時間がないアル! さっさと吐けゴルァ!」
一分一秒が惜しいのだ。こうしている間にも茂吉に危険が迫っているのではないかと不安に駆られる。もし茂吉を救出することが出来なければ…………神楽は考えたくないと目を一度強く瞑った。
「頼むアル……教えてくれネ」
神楽は山崎から手を離すと頭を下げた。手段は選んでいられないのだ。すると山崎は言った。
「正直、茂吉って大工が生きてる保証はどこにもない。それに黒龍のアジトは江戸だけでもいくつも存在する。今も沖田隊長がしらみ潰しに当たってる所だ」
神楽は頭を上げると覚悟を決めた瞳で言った。
「あいつ一人でやってるアルカ? いくらなんでも無茶アル! 私にも教えろヨ」
沖田の意地なのだろうか。しかしその判断は賢明ではないと、神楽は自分も手分けして捜すつもりをしていた。
山崎は神楽を退かせ布団から出ると、文机の上にある書類の束から一枚の紙を取った。そしてそれを神楽に差し出すと真面目な表情をするのだった。
「黒龍のアジトの所在をまとめたものだ。沖田隊長は頭から順番に調べてるだろうから……」
「分かってるアル。私はケツから調べていくネ」
山崎はもう何も言わずに頷くだけであった。神楽もそれに強い眼差しで頷くと立ち上がった。
「チャイナさん! くれぐれも気を付けて……」
その言葉に神楽は背を向けたまま返事をすると、最後に一言付け加えた。
「私を誰だと思ってるネ。万事屋のグラさんアル」
それだけを残すと、颯爽と夜の闇に消えるのだった。
黒龍のアジトは二十一軒もあった。それを神楽はリストの最後から順番に当たっていくことにした。一軒目は空で、二軒目も空であった。そして三軒目も四軒目も、ことごとくハズレであった。そうして神楽が八軒目のアジトである《資材倉庫A》に迫った時だった。人気のない山手にあるのだが、男の怒鳴り散らす声が聞こえたのだ。
「まだ吐かねえかッ! 残りのクスリと金はどこへやったァアア!」
そして、何かを蹴り飛ばすような音が聞こえる。間違いない。神楽は確信した。この倉庫の中で残忍な集会が開かれていると。神楽はゆっくり倉庫を取り囲んでいる足場に上ると、倉庫の上部にある窓から中を覗いたのだった。
煌々とした明かりの中で大男が六人は居て…………縄で縛られた男に寄って集って蹴りをいれていた。きっとあの芋虫のようにうずくまり、顔を真っ赤な血に染めているのが茂吉だろう。本人である証拠はどこにもなかったが、どちらにしても数人で一人をボコボコにしているのは胸くそ悪い。神楽は傘をいつでも使えるように準備をすると、静かに倉庫の中へ侵入するのだった。
どうやら茂吉を蹴り上げるのに夢中で男共はこちらに気付いていない。神楽は倉庫内のコンテナに身を隠すと、どいつから仕留めていこうかと品定めしていた。
これくらいの人数なら、いくら大男でも余裕アル…………
そう考えて一番手前で笑っている男から襲撃しようと決めた時だった。倉庫の戸がガラガラと大きな音を立てて開いたのだった。
「と、父ちゃんを返せッッ!」
神楽はその声に息を飲んだ。倉庫の入り口に立つ小さな影。神楽の後をついて来たのだろうか、宗助が短い枝を手に立っていたのだ。
「ああンッ? なんだこのガキ?」
リーダー格である男が腰の得物に手を掛けた。このままでは切り捨てられてしまう。神楽は宗助の救出が先決だと、男の前へ飛び出した。
「宗助ッ!」
「神楽ねえちゃん!」
神楽は駆け寄ってきた宗助を腕に抱えると、切りかかってきた男を寸前で交わした。しかし、ヒュンとした音と足に走った激痛。神楽は銃弾が左足の肉をえぐった事を察すると、歯を食いしばった。
「お前ら……蜂の巣にされたくなかったら手にしてるもの捨てるアル」
神楽が唸るように喋るもリーダー格の男は気味の悪い笑みを絶やさない。粗暴そうな歩き方。それでこちらに詰め寄ってくると仲間に待てと合図を出した。神楽は全身を汗だくにすると、かすみ始める視界に撃たれたものが普通の銃弾ではないことを知った。
「ねえちゃん、よく見りゃいい女じゃねえか。俺たちはな、どこぞの星でお偉い方に女を売る商売してんだよ…………」
そう言って薄気味悪く笑う男は血に染まっている手で神楽の顎を掴んだ。
「神楽ねえちゃんに触るなッ!」
胸の中の宗助が叫ぶと、男の足が神楽もろとも蹴り飛ばした。そのせいで二人は床に転がり、宗助は仲間の男に抱え上げられてしまった。
「さぁ、どうする? 小僧も親父も俺らの手中だ。命だけは助けて欲しいか? え?」
男のニチャとした下品な笑み。神楽は初めて自分がただなぶり殺されるだけで済まない事を知った。身をよじると這ってどうにか立ち上がろうとした。
「おいおい、どこに行く気だ? 大人しくしねーとこの小僧がどうなるか……分からねえワケじゃねェだろ?」
宗助の喉元に短刀が当てられる。神楽は自由が利かなくなり始めた体に口から涎をポタポタ流すと、声にならない声で叫んだ。
「宗助には手を出すナァアア!」
「なら、どうすりゃ良いか分かってるな?」
神楽は宗助を目に映しながら何か策はないかと考えた。だが、次第に意識も朦朧としてきて判断力が鈍っていく。それを見て男は薄汚れた手を神楽のスリットの中へ突っ込むと、下着を脱がそうとした。神楽の体がカァと熱くなり、口に含んだ唾を顔面に吐いてやった。
一瞬、何が起こったか分からず止まる男。自分の顔面に手をやると、神楽の唾で濡れていることに気付いたようだ。すると男は倒れている神楽のツインテールを乱暴に掴み、頭を持ち上げた。
「威勢がいいなあ、こりゃ楽しめそうだ」
そう言って神楽の腹に拳で殴りつけると、神楽の口から泡が吹き出た。しかし、男を睨みつける瞳は強い光を宿しており、絶対に屈服しないと心の底から叫んでいた。
その光景を楽しんでいるのか、雑魚共が囃し立てるように笑い声を上げる。
「一発打っとけよ! あのクスリを!」
「もう何も言えなくなったか? へッ、丁度いい……次は直接こいつをズブリと打ってやるよ」
男は注射器を取り出すと、神楽の白い腕を取った。神楽はそれをうつろな目で見つめながら、ただただ宗助と茂吉の無事を願っていた。一人で乗り込んだのは自分の責任だ。こうなる事が想定出来なかったのは、自分の落ち度である。神楽は全てを受け入れる覚悟を決めるとその目を閉じるのだった。
助けて…………
震える心が叫ぶ。覚悟を決めた筈の神楽の目に涙が滲んだ。
「神楽ねえちゃぁぁああん!」
宗助の絶叫が聞こえ、神楽は皮膚に突き刺さる針に――――――
「その女に手ェ出すんじゃねえ」
聞き馴染みのある声が倉庫に響き、神楽は目を開けた。そして眼前に広がる光景。一人、また一人と血しぶきを上げて転がっていくのだ。尋常ではない刀さばきに侵入者が相当腕の立つ者であることを瞬時に悟った。それはリーダー格の男も同じだったらしく、神楽に打ち立てていた注射器を寸前の所で止めたのだった。
助かった…………?
神楽は倉庫へと突入してきた人物が誰であるのか、目を凝らして知ろうとした。燃えるような緋色の瞳と何にも染まることのない黒い隊服。そして、幾度と交えたその白刃を神楽が忘れる事はなかった。
「沖田――――」
その言葉はリーダー格の男の耳にも入ったようだ。
「お前は真選組一番隊隊長…………沖田総悟!」
しかし、沖田の耳には言葉など届いていないらしく、その刀で斬りかかることだけに集中していた。遂に五人目の男を切り終わると、残すはリーダー格の男一人だけとなった。沖田はじわりじわりと距離を詰める。まるで蛇が蛙を睨むように音もなく静かに。
「女の為に一人で乗り込むとはなァ、酔狂な野郎だぜ」
最後の強がりか、男がそんな言葉を吐くと沖田は少しも表情を崩すことなく答えた。
「黙れ。そんなもんじゃねえ……」
神楽の耳に沖田の声が届いた。普段は何かと争っていて、どうもそりが合わないのだが、味方につくとこれ程までに心強い男はいなかった。
沖田が血塗れた体でゆっくりと男へ近付く。
「この女は……この女はな…………」
沖田にとって神楽は何なのか。何故か沖田の言葉に神楽の心臓が音を立てた。しかし、沖田の口から出た言葉はいつもの沖田の言葉であった。
「この女は、俺がヤるって決めてんだァァアア!」
そう言って男に飛びかかった沖田は薄気味悪い笑みを浮かべると、震え上がる蛙に囁いた。
「人の標的を横取りするとどうなるか、たっぷり俺が教えてやらァ」
その後はもう血の雨である。さすがにそれはやり過ぎだろうと思う程に沖田は男を激しく叩き潰した。しばらくは美味しいご飯が食べられなくなる。少々引いている神楽は『鬼畜ドS』と心で呟き、そんな事を考えているのだった。
「神楽ァ!」
そこから五分もしない内に銀時と新八が倉庫へと飛び込んできた。パトカーのサイレンも聞こえる。どうやら山崎が銀時達へ神楽のことを話したようだ。神楽は銀時と新八に抱えられると、到着した救急車へと乗せられた。
「ぎん、ちゃん……宗助と……パピーは…………?」
あまり動かない口で訊ねるも銀時はただ『心配いらねえ』と答えるだけであった。宗助は無事だったとしても、茂吉のことは正直分からない。神楽はもう少し自分が強ければと悔し涙を零した。しかし、あの沖田が助けに来た……かは定かではないが、いつも仕事をサボっているあの男が何故一人で黒龍のアジトを洗っていたのか、その理由は神楽と同じである気がしたのだ。その事に少しだけ救われた神楽は、銀時と新八の手を握るとしばらく眠りに落ちるのであった。
あれからスグに真選組が黒龍のアジトを割り出すも、鱗一つ残さずに親玉は消え失せていた。あの倉庫に居た男共もまた下っ端の連中だったのだ。しかし、しばらく黒龍が江戸で悪さをすることはないだろう。沖田が貪った連中はどいつもこいつも二度と目を覚ますことはなかったのだから。後から聞いた話では、やり過ぎだと沖田は上から叱られたらしい。だが、沖田が来なければ神楽はどうなっていたのか分からない。そして、宗助と茂吉も同じである。
神楽はこの日、病院から退院すると真っ直ぐに駅へと向かっていた。普通の地球人ならば全治二ヶ月の重症だったのだが、神楽はそれを一週間で治してしまった。傷も残らないほど綺麗にだ。
「銀ちゃん、新八!」
先に駅に着いていた二人に声を掛けると、電車を待っている宗助と茂吉の姿があった。だが、茂吉の手には縄が掛かっている。そして、傍らには沖田が立っていた。
「父ちゃん…………」
そう言って宗助はべそをかくと、茂吉は『ごめんな』と何度も口にしてしゃがみ込んだ――――――と、そこで沖田が銀時に言った。
「旦那、ちょっくら俺ァ小便行ってくるんで、これ持っててくだせィ」
沖田は銀時に縄を差し出して立ち去ると、縄を受け取った銀時は少し悩んでから茂吉を自由にしてやった。
「よ、万事屋さん…………」
「縄が緩んでただけだろ。俺はただ持ってろって事だけしか言われてねえから。なぁ、新八?」
茂吉は銀時に深く頭を下げると、まだ腫れの引かない顔で宗助を思いっきり抱きしめた。忘れないように、その体にしっかりと刻みつけるように。宗助も父親に抱きつくと必死に泣くことを堪えていた。
「父ちゃん、絶対迎えに来てくれよ!」
「ああ……ちゃんと罪を償ったら……必ず……必ずお前を迎えに行く。それまで宗助、頑張れよ」
銀時も新八も神楽も目には光るものが浮かんでいて、遠い親戚の元へ預けられる宗助にいたたまれない気持ちになった。しかし、茂吉の罪は罪である。高額な治療費が払えなかったとは言え、悪事に手を染めることは許されないのだ。
親子が体を離すと、戻って来た沖田により再び茂吉の手に縄がはめられた。そして、少しだけ強く男らしくみえる宗助の顔が神楽を見たのだ。
「神楽ねえちゃん」
神楽は柔らかく微笑むと宗助の前にしゃがみ込んだ。あの日、神楽の後を追って一人で倉庫に乗り込んだ宗助…………勇気だけは人一倍ある強い子だと思ったのだ。
「オイラ、いつか絶対にもっと強い侍になって……神楽ねえちゃんを嫁にもらいに来るからな!」
その言葉に聞いていた全員が驚いた。銀時は顔を歪め、新八は軽く笑い、茂吉はなんとも言えない表情をしており、神楽は優しく微笑んでいた。
「おうネ! 楽しみにしてるアル」
すると宗助は鼻をすすり、茂吉の後ろに立っている沖田を指さした。
「だから、あんな侍と結婚しないで待っててくれよ!」
神楽は沖田と目が合うと、金切り声を上げたのだった。
「するわけないダロッ!」
だが、沖田は軽く口角を上げると宗助に言った。
「心配するな。テメーに渡す頃には調教も終えて、いい具合に仕上がってる頃だろうよ」
「ちょう、きょう?」
宗助はよく分からないと言ったように首を傾げた。
「お、お前、なに変なこと吹き込んでるアルカ! ひとをメス豚扱いするナ!」
「誰もメス豚なんて言ってねえだろ」
神楽は病み上がりの体ではあるが沖田に飛びかかると、沖田もそれに応戦した。そのせいで沖田の手から縄が離れ、縄を拾い上げた新八が呆れた顔で言ったのだった。
「もう! 神楽ちゃんもまた怪我するよ! 銀さんからも言ってくださいよ……」
新八がそう言って背後にいる銀時を振り返ると――――――
「おい、宗助。いくらテメェとは言え、神楽をそう簡単にやるわけにはいかねーんだわ」
「なんでだよ! 神楽ねえちゃんは、モジャモジャのおっさんのものじゃないだろ!」
「はぁあ? モジャモジャのおっさんんんッ!?」
銀時は五歳児と同じレベルで言い合いっていたのだ。
新八は低レベルな争いを繰り広げる銀時に溜息を吐いた。こんな事をしている間に本当に誰かに掻っさらわれても知りませんよと、神楽と取っ組み合っている沖田を目に映すのだった。
2015/08/09
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